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ひとみ系創作」
囁きの行方~Sweet memories~

囁きの行方 ~ Sweet Memories ~ [第4話]

2007.04.04  *Edit 

※第4話※

-パリ-

「久しぶりだな・・・。パリは、10年ぶりだ。」

パリの地に降り立った瞬間に和矢は懐かしそうに瞳を細めた。和矢がこのパリの空気に感じたのは、オレが日本に感じた想いと同じだったのだろうか。夕日に照らされたその横顔からはパリに対する愛情のような物が感じられた。

「セーヌに、寄ってもいいか?・・・・マリィの、最後の場所だ。」

夕日に背を向けそういった和矢の表情は真っ暗な影に覆われ、感情を読み取ることは難しかったが、オレには懐かしい友の、切なげな表情が見えるようだった。

「ああ・・・。かまわない。」

オレは、和矢の顔を見ることなくそう答えた。
車はすべるようにセーヌのほとりへと向かい、オレたちは一言も言葉を交わすことなく、ただ再び訪れた沈黙の海の中に身を浸し続けていた。
空港からセーヌまではそれほど時間を要しなかった。夕日のベールに覆われたセーヌは夢見るように美しく、水面は水晶のように輝いていた。まるで、マリィの短すぎる生涯のように。
オレたちは視線を合わせないまま、静かに車から降りた。この冷たいセーヌで、命を落としたマリィ。母のいなかったオレにとっても、マリィは母親のような存在だった。時にやさしく、時に厳しく、自分の子供に接するのと同じように接してくれた。
オレたちは何もすることなく、ただ夕暮れのセーヌをじっと見つめていた。和矢は今、何を思っているのだろう。

しばらくセーヌの水面を見つめた後、和矢は近くの花屋まで歩いていき、花束をひとつ買った。切なそうな顔でもう一度水面を見やり、手に持っていた花束をセーヌへと投げ込んだ。オレは心の中でマリィに祈りを捧げた。そんなオレの目の前を和矢の放った花束が美しい放物線を描いてセーヌの水面に吸い込まれていった。

「悪かったな、足止めして。」

オレの方を見ないまま、和矢は言った。オレも同じように前を向いたままで答えた。

「いいさ。かまわない。」

オレたちはそれぞれマリィへの想いを胸に抱きしめたまま、煌くセーヌを後にした。



それから程なくして、オレたちはアルディの門をくぐった。ほんの数日ここを離れただけなのに、なんだか家の雰囲気が違って見える。それは、オレの心のうちがそう見せるのだろうか。
迎えに出ていた執事に視線を流し、二言三言用件を伝える。一連の作業が終わると和矢は執事に微笑んで挨拶をした。いつもならそんな和矢を待ったりはしないが、オレはその場にたたずんで和矢を待った。
想いが、交差する。愛と絶望は複雑に絡み合い、オレを締め付けていた。
やがて和矢と執事の挨拶も終わり、控えていたメイドが和矢を部屋へと案内するために歩き出す。どこか遠い、砂漠の真ん中で迎えた夜のように響く音はうつろで、あたりの気温がすさまじい勢いで下がっていくような気分だった。
オレは、今、どこにいるんだ。オレは、何をしようとしている。この身体は、本当にオレのものなんだろうか。
思考が、まとまらない。息が、苦しい。身体が時を刻むことを拒否していた。



「マリナは記憶を失っているって、そう、言ったよな。」

不意に和矢が口を開いた。その声にはっとすると、いつの間にか和矢のためにしつらえたゲストルームの中にいた。情けないにもほどがある。オレはこんなにも動揺していたのだ。

「ああ。」

内心の動揺を悟られぬよう、そっけない態度で答えると、和矢はゲストルームのソファーに腰を下ろして、何か考え込んだ様子を見せた。軽く開いたひざの上に肘を置き、組んだ指を口元に当てたその姿は切なげで、どこか苦しそうに見えた。

「オレは・・・。」

薄暗くなった室内に和矢の声が響く。重々しいその声がオレを締め付ける。マリナに起こったすべての事柄が、神の冗談だったならどんなに心躍ることだろう。

「オレは、この十年ですいぶんと変わったと思う。オレはもう、17のガキじゃない。いっぱしの男になったつもりだ。」

和矢はそこでいったん言葉を切り、夜の気配を映した漆黒の瞳でまっすぐにオレを見据えて先を続けた。

「もし・・。いや、実際に、マリナが17歳の頃に戻っているというのなら、今のオレをみても、オレだと認識できないんじゃないのか?」

和矢の強い視線が訝しげに曇る。確かに和矢のいうことは正しい。だが・・。

「なのに。なぜおまえのことがわかる?おまえだって18のガキじゃないはずだろ?」

相変わらず和矢は鋭かった。その切り込むような視線は、昔のまま変わっていなかった。オレは不思議な懐かしさを感じながら苦笑せずにはいられなかった。和矢はやはり、和矢なのだ。そう思うとどこかうれしかった。

「確かにオレは18のガキじゃない。だが・・。」

オレは告げねばならない。事実とはなんと無情なものだろう。

「オレが特別というわけじゃない。・・・・マリナは今、視力矯正をしていないんだ。事故にあった直後からずっとね。」

自分の言葉が胸に刺さる。事実オレだけが特別だったのなら、どんなにか良かっただろう。
冷たい夜風が頬をかすめていく。冷えたオレの体をさらに冷やすように。オレの愛しい薔薇はオレにほほえみかけることを忘れてしまった。

「今の彼女には目に映るものすべてが刺激となる。あまり急激にショックを与えて混乱させるよりも、なるべくゆっくりと治療を進めていく方がいいと判断した。」

この言葉のどこまでが事実で、どこまでが虚構なのか、わからない。オレはとうの昔に、正気などではないのだ。

「記憶障害の治療に、焦りは禁物だ。」

和矢に問われる前に次々に言葉を発していく。言葉を発すれば発するほど、自分の芯が冷えていくのを感じていた。マリナが灯した愛の火は、オレの胸の中でその炎を燃え上がらせたまま少しずつ凍ってゆく。

「なるほど、ね。わかった。」

和矢はオレから視線を外し、窓の外を見つめてそういった。和矢の横顔はその見事なまでの漆黒のくせ髪と窓の外に広がる薄闇に覆われていて、その横顔に隠された思いを読みとることはできなかった。

どのくらいの時間そうしていただろうか。外はすっかり闇に覆われ、オレたちの間の沈黙もその闇の中に隠してしまった。
オレはライトをつけ、その闇を破った。オレは暗闇の心地よさに紛れてしまうわけにはいかないのだ。

「明日の朝、マリナに会わせる。」

胸の痛みを振り切るように強く言った。これで、いい。後は決めたことを実行するだけだ。

愛とは、何だ。
愛とは、苦しみの果てに得る、砂漠の一滴のようなものなのだろうか。
それとも。
傍らに咲く野花のように、ただひっそりとそこにあるものなのだろうか。
オレはかつて、「愛とは魂の試練のことだ。」と答えたことがあった。そしてマリナには、「愛とはそのために自分の身にどれだけの犠牲を受け入れられるか、そしてそれをどれほど喜べるかで計ることができると思うから。」と言ったことがある。
だが今は、わからない。
愛とは。人がどれほどに求め憧れたとしても、その手につかみ続けることのできない幻想のようなものなのだろうか。
犠牲だけでは満たされない。愛を、与えてほしい。

オレたちはどこへ行こうというのだろう。オレと和矢とマリナの未来はどこにあるのか。
オレは努めて何も考えないようにしながら、和矢の部屋を後にした。



次の朝、アルコールとともに目覚めたオレは、いつものようにバスルームへと向かった。
身体が重かった。体中から立ち上るアルコールを洗い流すように熱いシャワーを浴びた。
今日からは、何かが変わる。オレにとっては望まぬ方向であることはわかっていた。
目を閉じて、頭からお湯に打たれるとだんだんといらない感情が整理されてゆく。立ち上る蒸気はオレのとるべき態度を教えてくれる。

「さあ、フィナーレといこうか。」

誰に言うともなく自分に言い聞かせるためにそうつぶやき、オレはカランをひねってシャワーを止めた。

決意が揺るがぬように手早く身支度を整えて和矢のいる部屋へと向かう。近づくたびに迷う心を閉ざした。

和矢の部屋のドアの前で、もう一度心に錠をかけ、ノックをする。中からは何の答えもなく、しばらくして重そうに扉が開いた。決意を秘めた漆黒の瞳が、まっすぐにオレに向けられる。その瞳に映るオレはどんなに滑稽な姿だろう。

「はいれよ。」

お互いに朝の挨拶を交わすこともなく部屋の中へと入る。さわやかなはずの朝の空気はねっとりとした圧迫感を醸し出していた。

「・・マリナに会う前に、言っておきたいことがある。」

何かを計るような光をたたえた瞳で和矢が言葉を紡ぐ。これ以上何をオレに求めるというのだ。そう・・・・、マリナ以上に。

「もう一度、きちんと確認しておく。もう一度マリナの手をつかんだら、オレはもう二度とその手を離せないと思う。オレは・・・。」

苦しげに一呼吸置き、さらに言葉が続けられる。

「オレは・・・、マリナの記憶が永遠に戻らないことを願ってしまうかもしれない。それでも、いいのか?」

和矢の目にはためらいと決意とが入り混じり、二つの相反する感情をもてあますようにゆれていた。和矢の声はいつもよりもずっと低く、愛を請う漂流者のように掠れて乾いていた。オレたちの背にある懺悔の十字は、またしてもオレたちを苦しみへと誘う。マリナがマリナである限り、オレたちがオレたちである限り、懺悔の十字をおろすことは出来ないのだろうか。
和矢は、真剣だった。オレはその問いに真摯に答えなくてはならない。
何をどう、答えればいい。言うべき言葉は一つしか見つからなかった。オレは自身の心の裂けるような痛みを感じながらたった一つしかない答えを口にする。

「かまわない。それがマリナの望みだ。」

オレの言葉が終わるのと同時に和矢は両拳を握り締め、強くソファーテーブルにたたきつけた。そして、その荒々しい態度とは裏腹にひどく静かな声で告げた。

「・・・わかった。」

オレの目の前で、マリナの笑顔が闇に消える・・・・・。





→Next                   




※ちょこっとあとがき※

うう、またもやシャルルが辛い展開に・・・。
もう少し続きます。
よろしくお付き合いくださいませ~☆
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~ Comment ~

む、胸が・・・・ 

あああぁ~~~~~・・・・・もう、シャルルが切なすぎて胸が苦しいですぅ・・・(TT)
マリナよ、君は何故そんなにも罪作りな女なのであろうか。。。

愛は幻影だなんてそんなこと言わないでシャルル!私でよければぎゅっと抱きしめて暖めた~い!!(←シャルルがイヤだって)

和矢だって2度も3度もマリナを失いたくはないはず。それこそ可哀想・・・
だけどシャルルだって、育んできた二人の愛を無に返されるなんて・・・そんなの苦しいですもんね。。。

はぁ・・・本当に素晴しい創作を読ませていただいて有難う御座いました☆

泣いてしまいました… 

てぃあさま、こんばんは。

…言葉がみつかりません。

17歳に戻ったマリナを想うシャルルが切なくて、マリナを失ってからの和矢が哀しくて…。

どちらを選んだとしても、切ない。
マリナへの愛の深さで、パラドクスをもって切り離すことができるのでしょうか。

人間の心って難しいですね…。

何度読み返しても、切なくなります。
でも、同時に、心が癒されます。
泣いた後なのに…なぜなのでしょう。

いつも、素晴らしい作品をありがとうございます。
余韻に浸りながら、帰ります。

ありがとうございます! 

>ガーネット様
叫びからのご登場ありがとうございます(笑)
まさに『罪作りな女マリナ(笑)』ですね。

今回シャルルはとても辛い状況に自ら進んで(?)たっております。
私もぎゅっと抱きしめて暖めてあげたいですv

和矢もどうも苦しんでいる様子・・・。
回を追うごとに悲壮感が増しているような気がするのはきっと気のせいでしょう!(汗)

きゃ~んvv素晴らしいだなんてもったいないお言葉、ありがとうございます!
コチラこそお読みいただいてありがとうございます☆

>まりも様
コメントありがとうございます♪
あう!まりも様を泣かせてしまった!!

シャルルも和矢も物事の本質を知っているのだと思います。
そんな素敵な人たちが心から愛した人は、心の奥深くにまで食い込む存在なんじゃないかな、と思います。
だからこそ、その想いを昇華させることはとても難しいのかもしれないですね。
本当に人間の心って難しいです・・・。

何度も読み返していただけたんですね。
とても嬉しいです。
こんなつたないお話ではありますが、少しでもまりも様の心を癒すことが出来たのなら、これ以上嬉しいことはありません。

コチラこそ、まりも様のコメントに癒される思いです。
ありがとうございました☆


 

む、胸が締め付けられるような切ない苦しい展開です・・・
シャルルと和矢のやり取りをみて、十数年前の痛みがぶり返しました・・・なんということ。
「愛とは、何だ」。難しい問いですよね。でも自分なりの答えを見つけたいです。
続き、楽しみにしておりますね。
もうすぐに例の件連絡できると思います(*^。^*)

ありがとうございます☆ 

>ことり様
どうもです~♪
切ない、苦しい展開になっております・・・・・。

和矢とシャルルのやり取りは10言わなくても伝わってしまうようなそんな雰囲気が出せていたらいいなと思っております。
どっちもいい男ですよねぇ・・・(しみじみ)

「愛とは、何だ。」本当に難しいです。
願わくば、シャルルにとっての愛が幻影ではありませんように・・・。(って私が書いているんですよね・汗)

例の件、楽しみにお待ちしております~♪
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