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ひとみ系創作」
美女丸のお話

恋と雨の日

2006.08.21  *Edit 

「静香。」

私は今付き合っている彼氏に声をかけた。弾上藤一郎宗影静香。とんでもなく昔っぽくって長いこの名前が彼の本名。

「なんだ。」

とんでもなく昔っぽい名前の、中身まで昔っぽい彼がこれまたとんでもなくぶっきらぼうに答える。私はこのときの静香の顔が好き。私のほうを向いて、その涼しげな瞳をまっすぐに向けてくれるから。
ぶっきらぼうだけど、本当は優しくて、私の呼びかけには必ず答えてくれる。どんなときでも。

「なんでもないよ。」

わざとそう言ってじっと彼の目を見つめた。微妙な空気が流れて、視線が交差する。
『キスしてほしい』なんて女の私から言えば、きっと静香は怒るから。だから上手に誘惑をする。静香のほうからキスしてくれるように。

「なんでもない、じゃないだろう。」

畳に片手を付いて、身を乗り出すようにした静香の顔が近づく。私の唇に静香の唇が触れた。
私の後頭部に静香の大きくて男っぽいけど綺麗な手がまわされて、深く口付けられた。自分が求めたことだけれど、いつもにない情熱的なキスにクラクラした。

「ん・・、んん・・。」

実はこの誘惑の成功率はあんまり高くない。
静香は鈍い。女の微妙な気持ちなんていつも理解してくれない。この恋の始まりもそうだった気がする。

「ん・・・、静・・香。」

障子の向こうでは激しい雨が降っていて、この部屋と外界とを遮断している。雨と、キスを交わす音、それだけがこの部屋の中にはあった。

「・・・なんだ?」

激しい口付けの最中でも、やっぱり静香は答える。ホンの少しだけ、唇を離して。しゃべったら唇が触れてしまいそうなくらいの距離で、静香の声が唇に触れる。
でも、『なんだ?』って聞いたくせに私が答える暇も与えずにまた唇は重なった。
差し込まれた静香の舌が、熱い。答えるように絡ませた舌が、お互いの熱を伝え合う。
静香の情熱は、とても熱いと思う。普段の静香は自分にとても厳しくて、思うままに行動したりしない。自分を極限まで押さえつけているような感じさえあるような気がする。
禁欲的。そんな言葉が似合う。
でも。押さえつけられた感情が表に出てくるようなときは本当に激しい。まるでせき止められていた川が氾濫を起こしたようにとめどなく感情があふれてくる。今の口付けみたいに。

「すまなかった・・・。」

不意に激しい口付けが終わった。
静香は私を離して、少し上気した顔で、さっきまで自分が座っていた座布団に戻って胡坐をかいて座った。
やっぱり静香は鈍い。こんなに急に終わりにしないでほしいのに。
何だか気まずいような、微妙な空気が二人の間を流れる。泣いてしまいそうで、静香の顔が見られない。

「お前は、オレのことが好きか?」

静香は私の顔を見ずにそう問いかけた。静香の瞳は、障子の向こうの激しく雨が降る庭に向けられている。私はその真剣で、凛々しい横顔に向かって答えた。

「・・好きよ。すごく。」

きっと、好きな気持ちは私のほうがたくさん持っていると思う。静香のことがすごく好きだ。
私が答えても、静香は窓の外を見つめたまま動かない。何を考えているんだろう?
私は静香に忘れられない人がいることを知っている。きっとこの前一緒にいるときに電話してきたあの人だと思う。明るい感じの大きな声が静香の持っていた受話器から漏れ聞こえていた。あのときの優しい顔。あんな顔って見たことがない気がした。
今でも、あの人のことが好きなんだろうか?

ずっと窓の外を眺めていた静香が急に立ち上がった。湿気を含んだ空気が揺れる。
私は考えるのをやめて、すぐそばで立ち上がった静香の顔を見上げた。
何だろう、この顔。見たこともないくらい真剣な目をして、辛そうに眉根を寄せている。
空気が鋭さを増して、張り詰めたような緊張感を含んでいる。
何かが起こりそうな予感がした。

「すまん。・・・オレはもう耐えられそうもない。」

そのとき私は、どんな声を漏らしたんだろう。『え?』だったか『は?』だったか、とにかく何か一言だけを言ったような気がする。なにがなんだかわからなくて、自分の声も聞こえなかった。
静香の、後に続く言葉が怖かった。ついさっき情熱的なキスを交わしたばかりなのに、不安でたまらない。静香と付き合い始めてからずっと、静香のことを好きになるたびにずっと、いつか静香が本当に好きな人のところに行ってしまうんじゃないかと思ってきた。
静香のことが好きなのは私で、静香は私のことなんか本気じゃないのかもしれない、そんな不安がずっと心の中にあった。だから怖い。こんなに真剣な静香の言葉を聞くのは。

「オレが、怖いか?」

ぎゅっと目を瞑る私に静香は問いかけた。そうじゃない。静香のことが怖いんじゃない。
私は目を閉じたまま首を振った。

「じゃあ何故、泣いているんだ。」

知らないうちに涙がにじんでいたみたいだった。いつもは鈍いくせにこういうところは鋭いなんてずるい。

「さよなら・・・、したくないから。」

精一杯の勇気を出して私は言った。本当はこんなすがる様な真似はしたくない。でも、静香のことが好きだから、離れたくない。

「なっ・・!何を言ってるんだっ!何でオレとお前が別れるんだっ!お前、さっきオレのことが好きだって言ったじゃないか!」

静香の怒鳴り声と一緒に、肩をつかまれた。痛いくらい強く。

「だって!私と付き合うことに耐えられないって・・。」

私は目をあけて静香を見た。本気で怒ってる静香の顔が嬉しかった。

「ばかやろう!」

静香は私の頭を片手でさらうようにして逞しい胸に押し付けた。静香の鼓動が聞こえる。すごく早いリズムで、脈打っているのがわかる。ゲンキンだけど、私は自然と笑顔になっていた。静香が私のことで、どきどきしてくれるのが嬉しかった。

「まったく・・・。早とちりはお前の悪い癖だ。」

「今日は・・、帰してやれそうにない。・・・そういうことだ。いいか?」

静香の鼓動がさっきよりももっと速くなる。さらに強く押し付けられた胸が熱かった。

「え?」

あんまりにも急激な展開の変化について行けずに、私は変な声を漏らした。
怒っている静香が、さらに怒る。

「え?じゃない。いいのか、悪いのか聞いているんだ!」

静香の怒鳴り声も、今の私にはすごく嬉しかった。あの雨を見ながら、私との未来を思い描いていてくれたことが嬉しい。
静香の胸に顔を押し付けられたまま、私は真っ赤になって小さな声でつぶやいた。

「・・・いいよ。」

その言葉が静香の耳に届いた瞬間、照れ隠しのように押し付けられていた手が離れ、体ごと抱きしめられた。苦しいくらいに抱きしめられて、静香の顔が私の髪に埋まる。あたたかい吐息がちょっとくすぐったいような気がした。

「お前が、好きだ・・。」

私の髪に顔を埋めたまま、静香は言った。面と向かって言わない所が静香らしいと思った。


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