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ひとみ系創作」
並木道シリーズ

Avenue de marronniers

2006.09.21  *Edit 

秋。木の葉の舞い散る美しい季節。
ここパリでは街路に植えられたマロニエが、夏の間は鮮やかな緑色だった木の葉を茶色く染めて、道行く人々の頭上へと振り注いでいる。
木の葉は、やがて生き物たちの温かい冬の毛布となって、優しく小さな音を立てるのだろう。
生き物たちは、優しいマロニエの毛布の中で、春の息吹を待ちわびる。
パリの冬は、美しく厳しい。
ほんのひと時の美しい秋のため息は、やがて来る冷たい冬への序章なのだろうか。


「やばいっ!おくれる~~~~~っ!」

ここはパリ。泣く子も黙るシャンゼリゼ通り。
秋の恋人たちがそぞろ歩くこの通りを何であたしが猛ダッシュしているのかと言えば、あのきむずかしいシャルルと、この先のカフェで待ち合わせしてるのよっ。
普段運動なんてしていないからあたしの足はもつれる寸前。どうも体だけが前へ前へと急いでいるのに、足がついていっていない気がするわ。ぜいぜいっ。

恋人たちの間をすり抜け、買い物に来ているオシャレな親子を横目に見ながらあたしはひたすら走る。
道行く人が口をあけてあたしを見てるけど、そんなのかまってられない。
あたしから言い出した待ち合わせに遅れたら、何て言われるか、考えただけでもああ恐ろしいっ。
きっときっとあの南極も真っ青な冷凍光線みたいな目で嫌味を言うのよ、そうに決まってるっ!
ああ、もう!あたしの足ッ!お願いだからもっとがんばって!
こんなときにしか走ることの無いあたしの息は上がりっぱなしで、吐いてる息の方が多くって、すってる空気が少ない気がする。
ああ、もうだめ・・・。めまいがしてきた・・・・。
でも、あと少しで待ち合わせのカフェが見えてくるはずなのよ。・・・あたしの記憶が確かなら、だけど。

そのまま走っていると、どうやらあたしの記憶は正しかったようで、青と白のストライプのひさしが出た、可愛いカフェが見えてきた。
ここはね。あたしのとっておきの場所なのよ。
どうしてもここにシャルルを連れてきたかったんだから!


さあ、もうすぐで待ち合わせのカフェの入り口、というその時、一陣の風が吹いて、街路に植えられたマロニエの葉を舞い上げた。
歩道にもあたしの頭の上にも、マロニエの木の葉が降り注ぎ、あたしの足元に落ちてきてカサリと音を立てる。

その光景に、あたしは待ち合わせに遅れそうなのも忘れて立ち止まっていた・・・。

木の葉の舞い散る並木道、走るあたし。
こんなことが前にもあった気がする。
ずいぶん前、季節はやっぱり秋で、落ち葉にはしゃぐあたしを、いたずらっぽい眼差しで優しく見つめていてくれる人がいて。
その人のあったかくて、大きな腕の中に走りこんだ・・・。
黄色い、じゅうたんみたいな落ち葉の舞い散る並木道で。
あの頃のあたしも、すごく幸せだった。


あたしはマロニエの落ち葉の降り積もった道の先に、今ここにいない誰かを探していた。
落ち葉が色を変え、黄色いじゅうたんみたいな並木道が見えたような気がした。
そこにいたはずの、優しい優しい誰かの姿も。

ねぇ、またあんたに会える?
あたし、あんたのこと大好きだった。
あんたは今も、あのイチョウの舞い散る街にいるのかしら。

あたしは上を向いてよく晴れた青い空を眺めた。

あんたの住んでるところとこの空が繋がっているんなら。
あんたにあたしの声が届くかしらね。
届くのなら一言あんたに言いたいことがあるわ。

あたし、幸せだから。
あんたのおかげで、今、幸せだから。
だから。
あんたにも幸せになってほしい。
そしていつかまた、あんたに会いたい。

遠い空に思いを飛ばすように白い雲を見つめていると、カランとカフェのドアが開く音がした。
振り返るとも無く振り返ると、出てきたのはシャルルだった。
シャルルはどこか切ないような、さびしい様なそんな表情をしていたけれど、待ち合わせに遅れたあたしを怒ることも、いつもみたいに皮肉を言うことも無く、ただ黙ってそっと包むように抱きしめてくれた。
シャルルに後ろから優しく抱きしめられたあたしの目の前を、マロニエの落ち葉が一枚、ひらひらと優しく舞い降りて行った・・・。

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