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ひとみ系創作」
囁きの行方~Sweet memories~

囁きの行方 ~Sweet Memories~ 第5話

2007.11.27  *Edit 

※ 第5話 ※

次の日、オレと和矢はマリナの部屋を訪ねた。近づくたびに身体がこわばってゆく。
軽い音を立ててノックをすると心が震えた。
自分で決めたことだった。スケジュールに無理をしてまで日本へ飛んだ。なのに。オレはまだマリナを思い切れずにいる。終焉を告げる鐘はとっくになり終えたというのに。

「どうぞ~っ。あいてるわよ~~~っ。」

明るい、マリナの声。あの声がオレに最後通告を告げる。
ガチャリというドアノブの音、軽く軋む蝶番、ドアの閉まる音。じゅうたんに吸い込まれる靴音さえ胸を切り裂くように聞こえた。

「やあ、マリナ。気分はどうだい?」

交わされるいつもの挨拶。いつもと同じ診察。けれど今日はそのすべてを覆す存在がそばに控えていた。いつもの朝の様子と決定的に違うもの。それは和矢の存在だった。
マリナの、次の一声が怖かった。

「見ればわかるでしょっ。あたしはいつもどおりすっごく元気よっ。」

にこやかなマリナの笑顔、それがオレに向けられているのはきっとこの瞬間だけのこと。

「ねえ、それよりシャルル!あたしの眼鏡知らない?あれがなきゃ漫画も描けやしない!」

オレとマリナの物語の最後の一幕があがる。オレはこの役を見事に演じきらなければならない。

「眼鏡?君の眼鏡なら、そこのナイトテーブルの上だ。」

そっと眼鏡を置いたメイドの姿を確認してからそう告げた。それは普段のマリナの眼鏡よりもはるかに度を落として作らせた眼鏡だった。長い間視力矯正をせずにいたマリナにとってはごく僅かな度を入れた眼鏡であってもそれほどの違和感を感じさせずに済むだろう。
マリナが眼鏡へと手を伸ばす。長い間に培われた、とてもなれた仕草で。眼鏡をかけたマリナの瞳に世界はどんな風に映るだろう。

「あら?和矢っ!?あんたってばもう大丈夫なのっ!?」

マリナの大きな声が、部屋の中に響く。
オレは自分の周りの空気が薄いガラスのように壊れてゆく音を聞いた・・・。



それからというもの、オレは何かともっともな理由をつけてはマリナの部屋を訪れずにいた。診察もジルや他の医師たちに任せ、食事もほとんどアルディ家で取ることなく過ごした。
マリナの愛の眼差しを見たくなかった。他の男に微笑みかけるマリナの姿を見たくはなかった。
何故人は愛することでこんなにも、弱く、脆くなるのだろう。

「こんな生活を続けていては、身体によくありません。少し休んでください。あとの仕事は私が引き受けますから・・。」

心配そうなジルの声が乾いた執務室に響く。オレはその心優しい申し出に答えることもせず、心配そうにオレを見るジルに視線も向けないまま、椅子から立ち上がった。長く椅子に腰掛けていたせいだろうか、立ち上がったとたんに地面が揺れたように感じた。視界が、ゆがむ。オレはやっとの思いで近くにあった3人がけのソファーに倒れこんだ。













夢を・・・見ていた。長い長い夢を。




夜明け前のモノクロームの夢はオレを混乱させる。







「ねぇっ!シャルルっ。起きてっ!」

強く身体が揺さぶられる。通常光を遮断しているはずのカーテンが何故か開いているらしく、室内の明るさを感じる。いつもにも増して身体がけだるかった。今は、何時だ。このしつこくオレを起こそうとする人物は、誰だ。
厚く垂れ込めた暗雲の闇の中から手探りでその人物を探り当てる。闇の中にさす、眩いほどの光。その光は・・・。


「・・・マリナッ!」

オレは思わず大声を上げていた。ベッドを覗き込む様にしていたマリナの身体を強く引き寄せ、きつく抱いた。

「ちょっ、シャルル!・・・いったいどうしたってのよ!」

マリナだ。温度と質感を持った、現実のマリナ。もうずっと長い間こうして抱いていないような気がする。

「すこし黙って。・・・・今、君を感じてるんだよ。」

抱きしめた腕から、触れた柔らかな髪から、マリナの暖かさが胸に染み渡って行くようだった。彼女の身体から立ち上る、誘うような甘やかな香りにめまいがしそうだ。

「いつも・・・・、オレを起こすのは君だね、マリナ。」

マリナの体を抱いたまま、耳元で囁く。どんな闇に包まれていても、彼女はいつもオレを目ざめさせてくれる。

「なに寝ぼけてんのよ!ちょっと!ねぇ、離してってば!」

顔を赤らめてする愛しいお願いも今はとてもじゃないが聞くことが出来なそうだ。どんなに抱きしめても足りないくらいオレはマリナを求めていた。柔らかな朝の日差しが頬に心地よかった。朝の日差しが心地よいと思えるのは彼女がいるからに他ならない。
彼女なしではオレの夜は明けない。

マリナを抱く腕の力を緩めて、その小さなあごに手を添える。何度も交わしたはずの口付けの仕方さえ忘れてしまったように小さく身体が震えた。そっと頬を傾け艶やかに甘く誘う唇に触れる・・・・・。

とても甘い、めまいのするような口付けだった。小鳥の啄ばみのようにほんの一瞬のそれはしびれるほどに甘かった。



なのに。



何が起こったのかを理解するのに、数瞬かかった。



マリナは何が起こったかわからないという顔をして、オレの身体を突き放し、そして寝室のドアの所には複雑な顔をした和矢の姿があった。

ああ、なんと言うことだろう。夢も現実もオレを絡めとったまま、けして離してはくれなかったのだ。
さっきまでの甘いキスの余韻が斬りつけられた深い傷に変わり、唇に残る柔らかな感触が鋭い痛みとなって心に突き刺さる。
頭の中では理解していた。今までのことは夢でなどないのだと。けれど感情は先程の甘い世界から抜け出ることが出来なかった。
ベットの上で、頭を抱え込んだまま動けない。身体を動かす神経さえショック状態になってしまったのかもしれない。
そっと部屋を出て行く二人を空気の流れで感じながらオレはただ自分の手のひらが作り出す闇を見つめ続けていた。




それから、どのくらいの時間がたったのだろう。今が何時なのか、昼なのか夜なのかさえもわからなかった。唯一つわかるのは自分の周りが闇に包まれているということだけ。
不意にノックの音が響いた。けれどオレはそれに答えることも身動きすることもなく、ただ自分の周りにある暗い闇の中だけに身を浸していた。ずっとこうしていれば、オレの体もいつしか闇となって消えてしまうのではないか。そんな馬鹿なことしか考えられない。

「シャルル。」

和矢の声だった。何度もオレの名を呼び、そしてマリナの名も呼んだその声。懐かしい友の声も、今は一番聞きたくない声だ。
心のどこかで、期待していたのかもしれない。マリナがなんでもないような顔でオレの事を起こしに来てくれる事を。顔を赤らめてオレの顔を見つめてくれる事を。オレの事が好きだと、恥ずかしげに言ってくれる事を!
けれど何一つ叶うことはないのだ。そのすべてを受け取る人間は他にいるのだから。

「シャルル。」

もう一度和矢が呼びかける。否応なしに頭の内側へと届くその声にいらだった。聞きたくなければ、耳をふさげばいい。オレはずっとそうやって生きてきた。そう。マリナに出会うまで、そしてマリナと離れてからずっと。
なのに何故だろう。和矢の声を耳から、心から、締め出すことが出来なかった。

「・・・・。そのままでいい。話したいことがあるんだ。」

オレは自らの腕の中に顔をうずめ、そしておそらく和矢はオレから目を離さずに語りだした。

「今朝、マリナがここへ来ただろ?」

「あれは、結構ショックだったよ。お前とのラブシーンを目の当たりにしちまった事もそうだけど、それよりも部屋を抜け出したマリナがまっすぐここへ来たってことがショックだった。」

何を言って居るのか、わからない。

「知ってるか?マリナはさ。オレと一緒にいても、時々ふっと寂しそうな顔をするんだ。会話が途切れたときや、オレが視線をはずした瞬間に。そうして何かを探すようなそぶりをする。」

頭の中が酷く虚ろで、和矢の声だけが静かに頭の中に響いていた。
そこはとても心地よくて、何もない、霧の立ちこめた誰もいない場所。

「なぁ。おまえさ、マリナが記憶を失っても、生活に根ざした記憶は残っているって言ってたよな。それってさ・・・・」

言葉がとぎれて、ため息のような音が一つした。

「マリナがこの10年間の思い出を一つも持っていなくても、おまえを求めてまっすぐここに来るって事は・・・・、マリナのこの10年の生活の中にはおまえがいるのが当たり前になっていたってことなんじゃないのか?何も覚えていなくたってお前はマリナが暮らしていくのに必要な生活の一部だって事だ。」

突然白い霧が晴れていくのを感じた。あわてて顔を上げると、現実の色彩が目に刺さる。

「だったらお前もさ。マリナに恋した18の時から始めればいい。
なぁ、何あせってんだよ。らしくないぜ?10年前の、18のおまえはもっと強かったはずだぜ?」

ぼんやりと最後に会ってから10年の時を経た友の顔が浮かび上がる。その顔は昔と変わらず、親愛の情を湛えていた。

「オレさ。わかったんだ。マリナが本当にオレを好きでいてくれたこと。オレ達は確かに心を交わしあっていた。オレ達が一緒に過ごした時間は間違ってなんかいなかった。そして、それと同じようにオレ達が離れたこともきっと間違ってはいなかったんだと思う。」

「正直言うと、心のどこかで思ってたよ。いろんなトラブルとかそういうのがなかったら、あるいはもっと違う方法で乗り越えていたら、オレとマリナは今も一緒にいることができたんじゃないか、なんてさ。」

「でも、たぶんちがうんだ。思いがけずあのころのマリナともう一度出会う機会ができて、しみじみわかったよ。オレ達は何度やり直したとしても同じ道を選んでしまう。だから、ここにいるのは、マリナの隣にいるのはオレじゃない。」

「マリナは今もお前を愛してる。マリナが本当に求めているのはお前なんだ。」

「無くしてしまったのなら、もう一度作ればいい。もう一度、あのころから始めればいい。お前ならきっとマリナを直すことができると信じてる。お前に不可能はないんだろ?シャルル・ドゥ・アルディ博士?」

和矢は昔よくそうしたように、いたずらっぽく笑った。そしてすぐに真剣な表情で告げた。

「おまえはもう一人じゃない。マリナの心には、確かにお前がいる。それを・・・・、忘れるな。」

和矢は聞いて欲しいは言わなかった。ただ、話したいことがあると、そう言っただけだ。その意味は大きな違いをもっていた。そう、天と地程の違いを。

「でも良かったよ。今までわからずにいたいろんな事に気付くことができた。これで・・・、また誰かを好きになることができるかもしれないっておもったよ
。」

その時見た和矢の表情は何ともいえない複雑な表情だった。
何かを吹っ切った後のような、満足感の中に一抹の感傷を含ませたかのような、そんな顔だった。
しばらくの暖かく寂しげな沈黙の後、和矢はジーンズの膝をパンッと一つたたいて立ち上がると抜けるような青空を背にして微笑んだ。

「じゃあ、な。・・・・・・また、いつか!」

そうして和矢は去っていた。どこまでも鮮やかに。どこまでもさりげなく。

いつも、いつだってそうだった。和矢は何でもないような顔でオレを救い出してくれた。
その裏にはどんな苦労があったのか、そんなことは一つも見せずに。
だからオレは憧れた、漆黒の髪と瞳をもつ、この友人に。世界でただ一人、この人間のようになりたいと願った。

ああ、そうだ。
和矢がオレであれというのなら、オレは確かにオレであろう。
この世でただ一人、憧れ続けた人間に恥じない生き方をする。それこそがオレという人間である証だ。
そして何よりも愛しい存在を命をかけて守ると、誓う。

*つづく*








※ちょこっとあとがき※
シャルルが復活してきました。そして和矢ってば相変わらず不遇な奴です・・・。

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~ Comment ~

どきどきしました 

てぃあ様がどんなお話を創作されるのかどきどきしながら読みました。(シャルル様ファンの私としては・・・)
やっぱり和矢ですね。最後にはマリナのことを想って・・・
シャルル様ファンの私としてはうれしい展開です。
最終話、楽しみにしていますね。

ありがとうございます! 

>薔 釐麗 様
コメントありがとうございます。
どきどきしていただけたようでよかったです(?)

このお話はあくまでもシャルマリでございます。
ええ、どんなに甘くなくともシャルマリですとも!(笑)

ずいぶん長くかかりましたが、シャルルも復活してきました。これから彼にがんばってもらおうと思います。
最終話、がんばります☆

せつないです。 

はじめまして。せつないし、つらいですね。シャルルも和矢もマリナちゃんも。想い合っている感じですね。それでもわたしはシャルルとマリナちゃんのハッピーエンドを待っています!

ありがとうございます♪ 

>Mさま
はじめまして、でよろしいでしょうか?
コメントありがとうございます。TEARSへ、ようこそ!
弱小辺境ブログではございますが、よろしくお付き合いくださるととても嬉しいデス。

『囁き~・・・』は、一貫して辛い切ないという感想をお持ちになる方がとても多いお話なのですよ・・。
けれど!
やっぱりこのお話は基本シャルマリなので、二人が幸せになるようにがんばって書きたいと思っています。

シャルル、和矢、マリナ、この3人のお互いを思いあう様子が好きなんですよ~♪

次回はいよいよ最終話。
雨が降っている日だと、このお話は書きやすいので、春雨の降る日に書き進めていきたいと思います(笑)

またどうぞおこしくださいませv
おまちしておりますvv

素敵すぎます 

ふるい記事へのコメントで失礼します。

はじめまして、ma belleと申します。
素敵なお話を読めて、とてもうれしい気持ちでいっぱいです。
最終話待っててもいいですか。
とても気になって身もだえしています。
ああ、ぜひ結末だけでもっ!!
(もちろん、てぃあさんの無理のない範囲で)

Re: 素敵すぎます 

ma belleさんこめんとありがとうございます(^_^)v

古い記事へのコメントも大歓迎です。
むしろまだ読んでいただけているんだなぁと嬉しくなります

最終話、早めにUPできるようにがんばります

またいらしてくださいね

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